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札幌高等裁判所 平成元年(う)84号 判決 1989年10月17日

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人組村真平提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

論旨は、要するに、一、被告人浦上伸を懲役一年二月に処し、小型船舶などの没収を附加した原判決の量刑は、主刑が刑期の点で重きに過ぎ、また、没収がその与える財産的苦痛が大きくて酷に過ぎ、不当である、二、被告人波津俊彦を懲役八月に、同不破元司を懲役六月に各処した原判決の量刑はいずれも重過ぎて不当である、というのである。

そこで、所論にかんがみ、記録を調査し当審における事実取調べの結果を合わせて諸般の情状について検討する。

一  被告人浦上は、釧路市に本拠を置く暴力団寄居勇心会浦上組の組長であるが、かねてからいわゆる特攻船(官憲などの追跡を振り切るため、強力な推進機を船外に取り付けた密漁用の高速小型漁船。)一隻を用い、原審共同被告人山本信康らの協力を得てかにの密漁をしていたが、昭和六二年一二月、出漁中の同漁船が船外機二基のうちの一基の不調からソ連警備艇にだ捕されそうになり、乗組員は仲間の船に助けられて帰って来たものの船体は押収され、投入資金の相当部分が借金として残ったところから、同月末、新たに三六尺船と呼ばれる船舶一隻を購入して艤装を施し、二〇〇馬力の船外機三基を取り付けた高速航行性能の高い特攻船(第一五勇伸丸)に仕立てあげ、翌六三年初めからこれを用いてかにの密漁を再開し、同年四月ころには中古の特攻船一隻を加え、以後二隻体制で密漁を続けたが、予期したほどの水揚げを得ることができなかった。

そこで、被告人浦上は、同年七月ころ右の中古船を下取りに出して第一五勇伸丸同様の規格、性能を有する特攻船(第五勇伸丸)を購入新造するとともに、それまでの船頭らから腕のいい被告人不破元司(第一五勇伸丸)と被告人波津俊彦(第五勇伸丸)に船頭を変え、前記山本に差配させて、被告人不破には原審共同被告人鈴木一賢、同土谷正昭、同中垣一也を、被告人波津俊彦には原審共同被告人森崎憲二、同鎌田唯征(後に同野口幸博も加わる)をそれぞれ乗り子につけて乗り組ませ、自分は表面に出ず釧路市に控えて指示を出す一方、根室市に前記山本を常駐させて、右乗組員らの統括、密漁に必要な資材の調達、荷揚げしたかにの売り捌きなどの責任者とし、かつ、密漁実行の際陸上で海上保安部の取締り状況を見張り、無線を用いて密漁船の入港先を指示したり漁獲物の運搬用トラックを運び込むいわゆる陸回り役にこれまでどおり同人を当て、右第五勇伸丸及び第一五勇伸丸の二隻の特攻船を用いて北海道知事の許可を受けないでかにの密漁を行うこととし、これらの者との間で相互に共謀を遂げ、原判決別紙犯罪一覧表(一)記載のとおり、同年九月二七日から同年一〇月二七日までの間に、延べ一六回にわたり、根室市納沙布岬灯台の東方海域において、右二隻の動力漁船を使用して固定式刺し網により、花咲がに等かに類合計約一五、二八三・五キログラムを採捕し、不法にかに固定式刺し網漁業を営んだ(原判示第一の事実)ほか、北海道知事の備える漁船原簿に登録を受けないまま右二隻の漁船を漁船として使用し(原判示第二の一の1、第二の二の1の各事実)、右二隻の漁船に郵政大臣の免許を受けずに、不法に送受信用無線機、無線航行移動局(レーダー)を設置して無線局を開設し(原判決第二の一の2、第二の二の2の各事実)、右二隻の漁船を運行するにあたり、それぞれ船長として資格のある海技従事者を乗り組ませなかった(原判示第二の三の1、2の事実)ものである。

このように、被告人浦上は本件犯行の全般にわたってその首謀者であり、右二隻の漁船を購入新造して強力な船外機、無線装置などを装備するとともに、その乗組員、陸回り役などを選定、配置し、水揚げ利益の配分方法を定めてその約六割を自ら取得することとし、共犯者山本を現場の実行責任者に定めたうえ、反復、継続する意思の下に組織的、計画的にかにの密漁を実行したもので、本件で罪責を問われている約一か月間における漁獲水揚げの売却代金は合計二六〇〇万円余にのぼり、諸経費や乗組員の歩合金などを控除しても被告人浦上は約八〇〇万円の利益を得ている。そして、本件の密漁は、減少傾向にある日本近海のかに資源についての配慮もなく、無秩序かつ大量に高価なかに類を捕獲してくるもので、資源保護上有害であるのみならず、本件操業場所はソ連が領海権を主張する海域であり、ソ連警備艇によるだ捕の危険を予期したうえでの本件のような密漁操業は、我が国とソ連との間の漁業交渉に悪影響を及ぼし、地元漁民の漁場確保に重大な障害をもたらすものであり、さらにまた、海技有資格者を乗り組ませないで常時高速航行する船舶を運行させたのは、他の船舶との衝突など人命にかかわる重大な海難を生ぜしめかねない無謀な行為というべきであって、その犯情ははなはだ悪質である。また、被告人浦上は、若年のころから的屋寄居半井野睦会に入り、一時露天商をした以外は定職に就くことなくその道一筋で現在に至り、暴力団組長を名乗っているもので、昭和三九年以来傷害、暴行、暴力行為等処罰に関する法律違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反、覚せい剤取締法違反等々の罪で懲役刑で五回、罰金刑で六回処罰された多数の前科があり、そのうち最後の前科(昭和六〇年傷害罪で懲役一年二月)との関係で本件は累犯になることをも考慮すると、同被告人の刑責は重いといわなければならない。してみると、被告人浦上が、本件で検挙されたのを機に暴力団組織から身を引き、正義に就く旨を約し、共犯者らを巻き込んだ自己の非を認め、自ら一身に責任を取りたい旨述べ反省の情を披瀝していること、本件犯行に投じた特攻船などの借金の残り四〇〇万円前後について服役後その返済に当たらなければならないこと、妻子らの生活にも影響が及ぶことなど、同被告人のため酌むべき事情を十分考慮しても、同被告人に対する懲役一年二月の量刑が重過ぎるとはいえない。

また、所論は、原判決がした小型船舶船体二隻、無線機その他の機械、漁具等の没収の裁判は、主刑である北海道海面漁業調整規則五五条一項一号所定の法定刑(六月以下の懲役若しくは一〇万円以下の罰金又はその併科)と均衡を失し、被告人浦上に苛酷な財産的苦痛をもたらすものであるなどとして、量刑不当を主張するが、既にみたとおり、没収対象の小型船舶船体二隻は、いずれも同被告人が当初から密漁に使用する目的で購入し、これに強力な船外機等を装備して特攻船に仕立て上げ、魚網、揚網機、その他の漁具、レーダー、ロラン受信機などと共に現実に本件かに類の採捕の用に供したものであり、無線機六台及びその付属機器も右各特攻船の常用に供するため被告人がこれに附属させた従物であり、かつ、原判示の電波法違反の犯行を組成したもので、ソ連警備艇の出動状況、海上保安部の取締状況等特攻船相互間及び特攻船と陸回り役との間の各種情報の交換に使用され、本件密漁業務遂行のうえで重要な役割を果たしたものである。したがって、右各船舶船体以下これら原判決掲記の諸物件をその従物ともども漁獲物の換価代金と併せて没収することにした原判決の措置は、それらの転用可能性や価額等を考慮しても正義に反するとはいえず、相当として是認し得るところである。没収の裁判に関する所論も容れることはできない。

二  被告人波津及び同不破は、いずれも、被告人浦上らと共謀のうえ、原判決別紙犯罪一覧表(一)記載のとおり、特攻船の船頭として動力漁船によるかに固定式刺し網漁業の無許可操業に従事し(原判示第一の事実)、これに関連して、それぞれ被告人浦上及び前記山本と共謀のうえ、被告人波津は特攻船第五勇伸丸を、同不破は特攻船第一五勇伸丸を、北海道知事の備える漁船原簿に登録を受けないまま漁船として使用する(原判示第二の一又は二の各1の事実)とともに、同船に郵政大臣の免許を受けずに、不法に送受信用無線機、無線航行移動局(レーダー)を設置して無線局を開設した(原判示第二の一又は二の各2の事実)ものであるが、被告人波津は第五勇伸丸の船頭として、被告人不破は第五勇伸丸又は第一五勇伸丸の船頭として、それぞれ、無登録の各漁船を無資格で操船し、これに乗り組んだ乗り子各三名を指揮して水揚げの増加に努める一方、無免許の無線機を操作して被告人両名相互間及び陸回り役の山本との間で緊密に連絡を取り合い取締りの網をくぐるなど、いずれも本件密漁の業務を遂行するうえで重要な役割を果たすとともに、自船の水揚げした漁獲物の売却利益からその約一・五割の配分を受けるとの約旨のもとに、被告人波津は約七五万円を、同不破は約一四〇万円を現実に取得したことが認められる。

そして、(1)被告人波津には、昭和五六年一一月漁業法違反の罪(小型さけ・ます流し網漁の無許可営業)で罰金刑に処せられた本件と同種の前科があるほか、昭和五七年九月道路交通法違反(無免許運転)の罪で懲役六月、保護観察付き執行猶予四年に(その後執行猶予は取消された)、昭和六一年三月同法違反(同)の罪で懲役四月に各処せられ、いずれも服役したが、それらの執行終了時期(前者は昭和六二年一月二日、後者は昭和六一年七月二日)との関係で本件各犯行は累犯になることなどを考慮すると、犯情はよくなく、同被告人の刑責は重いといわなければならない。したがって、被告人波津が本件犯行を反省悔悟し、今後は密漁には関与せず正規の漁船で地道に働く旨誓い、実兄が服役後の指導監督を約していることなど、同被告人のため有利に斟酌すべき事情を考慮しても、同被告人に対する原判決の量刑(懲役八月)が重過ぎて不当であるとはいえない。

また、(2)被告人不破には、昭和五六年三月北海道海面漁業調整規則違反の罪(いわゆる特攻船を使用しての潜水器具によるうにの密漁)で罰金一万円に、昭和五八年九月同規則違反の罪(同)で懲役四月、執行猶予三年に各処せられた本件類似の前科のほか、昭和六一年三月傷害の罪で罰金刑に処せられた前科があることをも考慮すると、犯情はよくなく、同被告人の刑責も重いというべきである。したがって、被告人不破が本件犯行に対する反省の情を示し、妻子らのためにも生活態度を改め、今後は密漁に関与せず正規の漁船で地道に働く旨誓っていることなど、同被告人のため有利に斟酌すべき事情を考慮しても、同被告人に対する原判決の量刑(懲役六月の実刑)が重過ぎて不当であるとはいえない。

以上のとおり、論旨はいずれも理由がない。

なお、原判決は、被告人三名に対して法令を適用するにあたり、被告人浦上、同波津については原判示第二の一の1の罪(被告人不破については原判示第二の二の1の罪)とこれら以外のどの罪とを科刑上の一罪とするのかを明示しておらず、本件のように他に罪となる事実がそれぞれ多数ある場合に右明示を欠くことは妥当とはいいがたいが、原判決を慎重に検討すれば、被告人浦上については原判示第一の北海道海面漁業調整規則違反、第二の一の1の漁船法違反、第二の二の1の同法違反の各罪を科刑上の一罪とし、被告人波津については原判示第一の北海道海面漁業調整規則違反、第二の一の1の漁船法違反の各罪を科刑上の一罪とし、被告人不破については原判示第一の北海道海面漁業調整規則違反、第二の二の1の漁船法違反の各罪を科刑上の一罪とする趣旨であると理解することができる(また、「刑法五四条前段」とあるのは「刑法五四条一項前段」の誤記と認められる。)。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件各控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

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